クビワコウモリとは|乗鞍高原に生きる日本固有のコウモリ

クビワコウモリの顔のアップ写真(松本市で撮影)
クビワコウモリの顔のアップ。独特の鼻と大きな耳が特徴的。長野県松本市で撮影。

名前の由来と基本情報

クビワコウモリという名前を、聞いたことがあるでしょうか。
このコウモリは、日本にしか生息していない固有種です。本州中部の山岳地帯に、ひっそりと暮らしています。

体は手のひらにおさまるほど小さく、体重はおよそ10グラム。首のまわりに淡い黄褐色の毛が帯状に生えていて、それが“首輪”のように見えることから、この名前がつけられました。

全体の毛は黒褐色で、光の加減で金属のような光沢が出ることもあります。顔立ちは丸く、耳は小さめ。いわゆる“怖いコウモリ”の印象とは少し違う、落ち着いた雰囲気を持った生き物です。

森の中や山小屋のすき間にすむ

もともとクビワコウモリは、古い木のうろなどをねぐらにして暮らしていました。けれど、森の伐採や林業の変化によって、そうした自然のすき間は減っています。

その結果、山小屋の屋根裏や戸袋、壁板のすき間など、人が作った建物をねぐらとして使うようになりました。とくに乗鞍高原では、宿泊施設の屋根裏に100頭以上が集まり、子育てをしている例もあります。

人との距離が近くなり、生まれた問題

人の建物を使うようになったことで、コウモリと人との距離はぐっと近づきました。
それ自体は、生きのびるための適応でもあります。ですが、宿泊施設などでは、糞尿の臭いや衛生面が問題視され、建物の改修によってコウモリが追い出されるケースが増えています。

クビワコウモリにとっては、子育ての場を突然失うことになります。これは、現在の個体数の減少とも関係しています。

夏の繁殖、そして行方のわからない冬

乗鞍高原で、6月の終わりごろ、メスたちは一斉に出産します。子どもは約1か月で自力で飛べるようになり、9月下旬にはコロニーが解散します。

その後、クビワコウモリたちは乗鞍高原を離れます。しかし、冬をどこでどう過ごしているのかは、今も分かっていません。洞くつなのか、別の場所なのか。観察記録はなく、「冬のねぐら」はいまだに発見されていないのです。

夜に飛び、虫を食べて生きる

クビワコウモリは、夜になると活動を始め、飛びながら虫を食べます。主に蛾や羽アリなどの小さな昆虫です。音(超音波)を使ってまわりの様子を探る「エコーロケーション」という能力を持っています。

この超音波の特徴をもとに、録音だけでクビワコウモリを見つける研究も進められています。捕まえずに調べる、新しい方法です。

長く生きる、けれど謎の多い存在

クビワコウモリは、小さい体に似合わず、10年以上生きることがあります。最長で17年生きた個体も確認されています。

その一方で、冬の暮らしやオスの行動など、わかっていないことも多くあります。とくに、ねぐらの場所が分からない冬期の生態は、保全活動にとって最大の課題のひとつです。

減っていく個体数と、私たちの取り組み

2000年ごろ、乗鞍高原では300頭近くのクビワコウモリが確認されていました。けれど、今では100頭を下回る年も出ています。

クビワコウモリは、環境省のレッドリストで「絶滅危惧II類」に指定されています。長野県などでは、より高い危険度で保護対象となっています。

私たち「クビワコウモリを守る会」は、調査と保護を続けてきました。1996年に建てられたクビワコウモリ専用の人工ねぐら「バットハウス」も、2024年に全面的に改修し、新しい世代のコウモリたちが再び利用を始めています。

共に生きる道を、これからも探していく

クビワコウモリの保全は、人との共存をどう築くかが大きなテーマです。ねぐらを提供する建物の所有者とどう協力していくか。子どもたちにどう伝えていくか。

観察会や普及活動を通じて、「気味悪いコウモリ」から「大切な自然の一部」として見てもらえるように、少しずつ、歩みを進めてきました。

私たちは、乗鞍高原の自然の中でこの小さな命と共に生きる道を、これからも探していきます。